運動会難民
船のうえで運動会があるとかで
どうやってそこから逃げようかと
数日まえからかんがえていて
生まれた月ごとに赤と青と黄色に色分けされて
参加は自由とは言うものの
レストランに行くと同じテーブルになったひとから
何組ですかと聞かれ
えーっとたしか青です
おそるおそる答えると
まあ!わたしもよ!がんばりましょうね!と言われげんなり
なにをがんばるのかさぱりわからず
逃げ込んだトイレのドアに
運動会に参加しましょうポスターが貼ってあったりして
周到な作戦を立てて
波に飲まれないようすることを決意
だいたい
赤勝て白勝てなんていうけれど
赤が勝てば白が負ける
わたしが勝てばあなたが負けるという
どうにも逃げようのない仕組み
運動会嫌いなんて
ちょっと非国民みたいな感じで
だからと言って
同じ色のTシャツや
おそろいのはちまきなんかは到底できるはずもなく
一日どうして過ごそうかと船内新聞をながめていたら
わたしのようなひねくれもののためなのかどうなのか
いつもは日に1本の映画の上映が
今日は4本あることがわかり
運動会派がデッキへあがった時間を見計らい
冷房対策のショールを二枚
日本から持ってきた粉末のミルクティをタンブラーに入れ
カサブランカバーに寄ってお湯を注いでもらって準備万端
ブロードウェイというステージのある場所へ
はりきって出かけてみたらまだ誰も来ていなくて
あれあれ、少数派とはわかっていたけど
みんな運動会にいったのかなとちょっと拍子抜け
でもやっぱりなとおもいなおし
いつもは座らない前のほうの
それも一番正面の一番良い席に座って見始める
1本目は『プリティ・ウーマン』
名前は知ってたけど
まったく観たことがなかったから
へーこんな映画だったんだ
前にいっしょにお酒を飲んだひとが
ピアノのうえで、っていうのに憧れて
ピアノを習い始めたんだよなんて
わざとふざけて言ってたひとのことをちょっと思い出し笑い
この映画のことだったんだ
はじめて観たよ
お昼をはさんでこんどは伊丹十三の『タンポポ』
見終わって
もうれつにご飯が作りたくなる
映画を観に来たひとは全部で30人くらい
みんな運動会難民のようだけれど
片寄せ合うこともなく
それぞれに集まって
それぞれ帰っていって
心地よい
次の映画まではまだ少し時間があるので
海の見える階のソファでイヤホンで耳を保護しながら
「どくとるマンボウ航海記」を読んでいたら
隣のソファで
デッキで繰り広げられている運動会から避難してきたひとが
うるさいおばさんに「応援合戦の踊りがなっていない」と怒られ
不愉快だった由
とおりすがりのひとにぶちまけるなどしております
ほらね
だから嫌なの
運動会
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怒濤のヨーロッパ、北欧、バルト三国の寄港地のこと
少しずつ書いているのですが、追いつきません
北アイルランドのベルファストを出てたぶん一週間くらい経ったはず
ベネズエラには数日で着くはず
大西洋を南下中
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