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舞台袖にて ~クラシックフェスティバル当日(17)~【道のり47】

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【あらすじ】デビューまでの道のり 第1部 はこちら。 http://erueritri3.blog.so-net.ne.jp/2013-04-04-1 第1部の登場ペンギン・人物紹介 はこちら。 http://erueritri3.blog.so-net.ne.jp/2013-04-08 130127_3人.jpg 右手前:エルンスト、 右奥:エリアーデ、 左:トリアーデ 私はチェロを背負い、エリアーデはヴァイオリンを持ち、控え室を出た。 坂上さんの先導に従ってしばらく歩くと、「関係者以外立ち入り禁止」の表示があり、そこに一人の職員が椅子に座っていた。どうやらここが舞台への関所らしい。 職員は坂上さんに「お疲れ様」と言った後、私たちに顔を向けた。 「ぬいぐるみの君達が、最後に演奏するエルンスト、エリアーデですね。念のため今日渡したIDカードを提示してください。」 カードのチェックを終えた職員は説明した。 「そこの突き当たりのドアを開けて舞台袖に進んでください。間もなく18番目の方の演奏が始まるようです。少し早いですが舞台袖に行って出番をお待ちください。」 坂上さんと私達はドアの前まで進んだ。 ドアを開ける前に、坂上さんは振り返って私達に言った。 「いよいよね。2人共頑張ってね。トリアーデちゃんと一緒に舞台袖で2人の演奏を聴かせてもらうわ。」 今日は坂上さんがいろいろと気遣ってくださったおかげで、私もエリアーデもスムーズに行動できた。 私は感謝の気持ちで一杯になり、頭を下げた。エリアーデも私と同じようにお辞儀した。 さぁ、中に入るぞ! 坂上さんがドアを開けると、なだらかなスロープが見えた。スロープを上がるとそこが舞台袖だった。 薄暗い小さなスペースで、ここから舞台の様子が見えるようになっている。 その舞台上では18番目の演奏者がピアノを弾いている。 観客席はもちろんシンと静まり返っている。 本当にいまフェスティバルの真っ最中だと実感した。 ふと人の気配を感じた。見ると、彩華ではないか! 彩華の演奏の順番は19番、つまり私達の前だから、ここにいても当然だ。 しかし、本音を言えば、なるべく顔を会わせたくなかった。 彩華の高慢な顔を見ると、私の血圧が上昇してしまうからだ。 どうやら彩華は私にとって天敵のような存在らしい。 彩華はゴージャスなドレスに身を包み、ヴァイオリンを持ってそこに立っていた。 会場のロビーで見た時も相当派手な服装だったが、本番用に着替えたドレスは、まるで金持ちのセレブが集まるパーティーで着るような、きらびやかなものである。 ちなみに、私は女性がこういう派手な服装をするのをあまり好まない。女性はもっとシンプルで控えめな姿のほうが好ましい。 だがシンプルとは言えども、白うさのように、ジーンズやパーカといったカジュアルでボーイッシュな服中心というのも考えものだが‥。フェミニンな服は、せいぜいドットのワンピースがいいところだ。いや、今は白うさのことはどうでも良いのだ。 私がこんなことを考えているとはもちろん知らない彩華は、例によって相手を見下すような目を私達に向けた。 その表情は余裕しゃくしゃくの笑顔である。 トリアーデのヘンテコな説明を真に受けて、私とエリアーデなど敵ではないと思っているのであろう。 彩華は言った。 「あら、ペンギンさん。お疲れ様。お互い頑張りましょうね。」 そして、彩華は坂上さんのほうを見ると、バッグに隠れているトリアーデを見つけた。 「さっきのペンギンちゃんはやっぱりあなた達の仲間だったのね。」 トリアーデのアホはバッグから顔を出して彩華にお辞儀をした。ケーキをもらったお礼のつもりなのだろうか? まあ、今さらトリアーデが仲間だとばれたところで、彩華も私たちに何もできないだろう。 彩華は独り言のようにつぶやいた。 「でも、ペンギンさん達、かわいそう‥。」 独り言のようだが、私たちに聞かせようとしているのはミエミエだ。 本当は無視すべきだとはわかっていたが、「かわいそう」と言われて、私はカチンときた。 「はぁ? 何がかわいそうなんですか?」 彩華は言った。 「だって、私の後で演奏しなければならないんですもの。この私の完璧な演奏とペンギンさん達の演奏、どうしても比べられてしまうわ‥。私って罪な存在ね。でも、私を恨まないでね。」 何ぃー!調子に乗るのもいい加減にしないと、いくら冷静沈着な私でも爆発するぞ! 私が彩華に向かって反論しようとしたその時、坂上さんが彩華に向かって遠慮がちにではあるがはっきりこう言った。 「ここでは私語はご遠慮願います。」 彩華は坂上さんをきつめの視線で見返した。その目は「たかが職員がこの私に向かって偉そうに。」と言っていた。謝罪の言葉は無論ない。 坂上さんは職員として、彩華に注意を促したのであろうが、私達の気持ちを慮ってくれたのではないだろうか? 彩華の言うことなど気にするな、と。イヤミなど気に留めないで本番前の時間を大事にしてね、と私にメッセージを送ってくれたのかもしれない。 坂上さんありがとうございます‥。 そうこうしているうちに、舞台では18番目の演奏が終わったようだ。盛大な拍手の後は、審査員がコメントを述べている。 そして、彩華の番が来た。 「では、お先に失礼するわ」と言うと、背筋を伸ばし姿勢を正すと、堂々とした足取りで舞台へと進んだ。 (つづく)


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